撮影:吉田 繁
構成・編集:日本美術院 広報

 コロナ禍で作品制作においても皆さんはいろいろとご苦労があったことと思います。しかし、長い間の精進の賜物が実り、今回の再興第105回院展にも素晴らしい作品の数々が出品され、たいへん嬉しく感じています。今後もこのまま努力を続け、それを実らせた作品を生み出していかれることを希望いたします。

 田渕理事長をはじめとした同人の皆様、意欲満々で挑戦された将来ある若き入賞者の皆様、そして、この院展に出品された素晴らしい作品を世に伝えることに邁進している皆様のきめ細かさに感動しています。内閣総理大臣賞を受賞された井手康人さん、文部科学大臣賞を受賞された村岡貴美男さん、各賞を受賞された皆さん、誠におめでとうございます。心からお祝いを申し上げたいと思います。
井手さんと村岡さんの作品の前に立ち、私はお二人が芸大で学ばれ始めた若き頃を想像し、今、このような大きな賞を受賞されるまでの日々を想像しました。そして、井手さんの作品「神々の視座」においては、今まさに世界中が困難なこの時期にひとりの若き女性が救いの手を差し伸べているかのように感じました。村岡さんの作品「深淵」でもひとりの女性が花束を持ち亡くなった人に祈りを捧げています。私はこれらを拝見して芸術は勇気を与えてくれるものだと実感いたしました。久しぶりに素晴らしい芸術を拝見できたと感動しています。 
横山大観先生は「芸術は終生が修業だ」と言われました。入賞された皆様が終わることなき芸術の道を邁進されることを期待し、院展が益々栄えることを祈念して私のご挨拶に替えさせていただきます。

 今回の作品は人から見た世界ではなく神様から見た世界を描くことに挑戦しました。といっても結局、描くのは私ですからそう簡単には行かないこともわかっています。それでも自分が感じたものを越えたところを目指したいと思っていました。宗教的な雰囲気の影響もありますが、結果として、これまでと違った表現になりました。
正直、どんどんと手が進まずに、迷って手が止まってしまうこともありました。それでも、できないながらも神様の視点と自分を越えた表現に向かい続けた結果、こういう賞をいただけわけですから、「自分の想いが少しは伝わったのかな。ありがたいな」と今は少しだけ安堵しています。

 「院展に出品し始めた頃に戻そう」というのが今回のテーマでした。コロナ禍で人に会わない時間が多かったのでそういうことを自問自答していました。描くことで記憶を辿って昔の自分に戻ってみようと思いました。
以前から「絵を勉強して身につけた事は、いつかは捨てなければいけない時が来るのではないか」と考えていました。昔に立ち戻って何を考えて描いていたのか思い出すつもりで制作しましたが、結果としてはこの一枚では戻れなかった。結局は自分が絵の勉強で磨いてきたことが拠り所になっていることに気づかされたという所で止まってしまった。だから、次の作品でもまた自問自答は続くのでしょう。

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