「NIHONGAタイムトラベル」
日本美術院とキヤノン「綴」プロジェクトが贈る良質な時間旅行

趣旨
・地域文化振興・日本画鑑賞及び日本画教育の一環として日本美術院、株式会社キヤノン文化支援推進課協力のもと実践する地域貢献活動。
・日本の伝統表現と最新の高精細技術が融合した「綴」作品を、「用の美」の観点から展示形態を模索し、演出する。
・複写作品だからこそ可能である鑑賞法の模索。
・内野町に有する文化的価値のある物への啓蒙。

結果
本企画では、日常の生活圏の中では関わりが少ない、寺院の庫裡(方丈)を全面的に使用し、住職の方々のご協力により、季節の花々や、調度品と合わせ、良質な空間演出が可能となった。また、日本美術院所蔵作品も、小品の場合、一般邸宅に掛けられることが想定されて表現されていることが多く、作品の演出効果としても、美術館での鑑賞とは違う趣が得られ、作品のもつ風格が存分に再現することができた。また、鑑賞者もこの空間を楽しんでいる様子が伺え、リピーターを含め、口コミでこの企画の評判が広がり、入場者が増加する傾向が見られた。

入場者数
合計 1,290名

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特別講演①「古典への眼光」
場所:庫裡大広間38.5帖
参加者数   78名

講師:蒔田剛(キヤノン株式会社デジタルシステム開発本部画像技術開発センター所長)
武田光一(新潟大学名誉教授)
10月3日(土)15:00~17:00
15:00~15:50:制作に携わった技術者による作品解説。
講師 蒔田剛 木村純子(オブザーバー)
休憩(10分)
16:00~17:00:美術史的背景における「松林図」の成り立ち
講師 武田光一

講演最初に、キヤノン株式会社CSR推進事業部長木村純子氏による、綴りプロジェクトの活動内容についての説明があり、その上で蒔田氏による作品の技術的な説明、武田氏による美術史の観点からの解説という流れで講演は行った。
どの講師も、一般鑑賞者を対象に講話構成を考えていたためか、聴講者が退屈することなく、終始講演内容に耳を傾けている姿勢を伺うことが出来た。
特に蒔田氏の講演は、本来理解しがたい画像解析や出力方法など、自身の趣味である天文写真の資料やその撮影時のエピソードなどを加え、身近な視点から高精細技術を紐解いて解説しており、大変好評であった。
また、今企画は、様々な角度から日本画に対してアプローチしている。
その一環の外部協力者として、新潟大学名誉教授の武田光一氏にも講話をいただいた。
その中で史学的な検知からの見解と表現者の視点では見解の相違があり、双方の見解を深める機会としても、このような企画は有効であると判断できる。

報告者:永吉秀司

キャノン「綴」プロジェクトで制作された高精細複製品の展示・解説。
国宝長谷川等伯筆「松林図」綴作品(国立東京博物館蔵)展示(常設展示)
・調光式ライトでの照明

場所:清徳 庫裡大広間(展示空間38.5帖)
9月26日(土)~10月11日(日)常設展示

・日本美術院より借用した毛氈を三枚使用(3×6寸2枚、中判1枚)
・結界の代わりとして、キヤノンより借用した調光ライトを前面に配置。
美術館などの疑似展示とは違い、庭からの借景、格天井、障子など庫裡(方丈)ならではの演出効果が得られ、非常に良質な空間演出をすることが、可能となった。
また、日照時間、照明の点灯・消灯などによりさまざまな演出効果が得られ、多くのリピーターが存在した。何人かのリピーターの観覧者と話をしたが、本来の見え方で作品を、しかも身近な環境でこのような機会を得られるということは、大変ありがたいという意見感想が多数寄せられた。今後も継続してこのような活動をしていくことは、日本画リテラシーの検知から、有効手段と思われる。

特別講演②「画家のまなざし‐古今変わらぬ作品との対話」
場所:庫裡大広間 38.5
参加者数:  103名

講師:大矢紀先生(新潟出身・日本美術院同人)
10月4日(日)13:30~16:00 (17:10終了)
13:30~15:20:写生の実演(描画対象:葡萄・冥加)
休憩(10分)
15:30~16:15写生の実演(描画対象:冥加・ひも付き唐辛子)
16:15~17:10展示作品についての解説。

当初、大矢先生のデモンストレーションと講演会は、16時終了予定であったが、写生の絵の具が乾かない状況や、熱心な聴講者の質疑や大矢先生の御厚意もあり、1時間延長する形で講演は終了した。
キヤノン株式会社の協力により、解像度の高いプロジェクターを使用することができ、ビデオカメラで手元を撮影し、そのモニター画面をスクリーンに映写するという演出で、写生のデモンストレーションを実施し、手元の動き、色など精査に再現することができ、先生の滑らかな動きを見事に再現していた。
描写したモチーフは、葡萄1房、冥加複数、紐でまとめた唐辛子1房、計3つのモチーフを個別に描画し、3枚の写生を実演した。
鑑賞者も、このイベントを目当てに来場した人も多く、3時間という長い時間にもかかわらず、まるで参加者がその場で描写しているかのような臨場感があり、時間も忘れて大矢先生の筆の動きに集中しているようすがみることができた。また、写生を進めながら、展示してある作品の前田先生や新井先生、平山先生などとのエピソードを話していただき、鑑賞者が、作家を身近に感じるよう様々な工夫が見られた。質疑応答の時間では、学生や熟練者など、様々な鑑賞者が積極的に質問する姿勢が見られ、充実した内容の講演会であった。

報告者:永吉秀司

<協賛企画>
新潟大学美術教育研究会研究会
「鑑賞教育アラカルト:作品を楽しむ多様な視点」
場所:庫裡大広間
参加者数:62名(対象:教職員・学芸員・学生・一般 参加費:500円)

講師:大森慎子(新潟市立新津美術館学芸員)
永吉秀司(新潟大学教育学部准教授・日本美術院院友)
コメンテーター:田中咲子(新潟大学教育学部准教授・美術史)

10月 3日(土)午前10:00~12:00(終了12:30)
10:00~10:10 開会のことば」
10:00~10:40 綴り作品≪松林図屏風≫を用いた鑑賞ワークショップ
講師:大森慎子
10:40~11:10 表現者の視点から見る作品鑑賞
講師:永吉秀司
11:10~11:15 休憩
11:15~12:20 パネルディスカッション
12:20~12:30 閉会のことば

  • 鑑賞教育アラカルト:作品を楽しむ多様な視点
  • 鑑賞教育アラカルト:作品を楽しむ多様な視点
  • 鑑賞教育アラカルト:作品を楽しむ多様な視点
  • 鑑賞教育アラカルト:作品を楽しむ多様な視点
  • 鑑賞教育アラカルト:作品を楽しむ多様な視点
  • 鑑賞教育アラカルト:作品を楽しむ多様な視点

新潟大学美術教育研究会は、主に本学学生、新潟大学出身の現職の学校教員、美術館および博物館の学芸員、生涯学習施設職で構成されている研究会で、例年定期的な研究会を実施している。
今回はキヤノン株式会社、日本美術院の協力により、綴り作品「松林図屏風」を展示するということで、その作品の活用方法、鑑賞方法を深める機会として本研究会を企画した。また、「内野DEアート」期間ということで、一般の方に広く門徒を開け開催することとなった。
具体的な進行としては、開会の挨拶の後、まず大森氏が、在職の美術館で実際に取り入れている対話型鑑賞法を、解説を含めたロールプレイング形式で実践し、その後、本院教育プログラム委員である永吉が、表現者の視点から、描き手としての私見を基に和紙の種類、使用した墨の種類・手法、構成バランスなどについて解説し、物の見方に対する様々な方法を展開し、鑑賞方法の多様性について見識を深める機会となった。
また、その後のパネルディスカッションでは、参加者の素朴な作品の見方についての質問や、授業展開で生じる問題、材質研究の立場からの質問など、作品の見方に対して闊達な議論が展開され、一次元的な見方に陥りやすい作品鑑賞について広い見識を持つ機会となった。
今後、授業実践との連携も踏まえて展開を模索していきたい。  
報告者:永吉秀司

清凛茶会
「屏風絵のしらべ」
場所:庫裡大広間
参加者数:75名( 茶会11名 呈茶36名 お菓子のみ28名 )
参加費:500円  ※お茶・菓子代として

作法・協力:新大裏千家茶道部
10月11日(日)10:00~15:00
10:00~11:00  茶席 (11名)
11:30~15:00  呈茶 (36名)
16:00~17:00 お菓子のみ(28名)

  • 清凛茶会 「屏風絵のしらべ」
  • 清凛茶会 「屏風絵のしらべ」
  • 清凛茶会 「屏風絵のしらべ」
  • 清凛茶会 「屏風絵のしらべ」
  • 清凛茶会 「屏風絵のしらべ」
  • 清凛茶会 「屏風絵のしらべ」
「NIHONGAタイムトラベル」というコンセプトより、一般寺院の庫裡、多様な展開を可能とする綴り作品、良質な時間という言葉をキーワードに、「松林図屏風」を鑑賞するという趣旨の茶会を企画した。荘厳な雰囲気の中で催される茶事はまさに幽玄そのものであった。本来の作品は、規程によりこのような会は実現できないが、綴り作品だからこその趣向であると言ってよい。
また、茶会の企画の中で、思わぬ来客者もあった。 中国総領事館の領事館とその家族御一行である。 35名ほどの団体で、この「NIHONGAタイムトラベル」の企画のために、マイクロバスをチャーターしてくれたという。 この予期せぬ来場者は、この企画を気に入った来場者の方が、この企画のことを中国総領事館に紹介したところ、是非、来場し作品鑑賞とお茶会に参加したいという主旨の連絡があり、来場する運びとなった。
思わぬところで国際交流の機会を得たが、本来の日本の美というものは、現代の言葉で言えば「トータルコーディネート」における総合芸術であるため、それを具現化し、継承することも、「美意識」としての国際交流の懸け橋となる可能性を含んでいる と思われる。
今後、海外に向けて発信できるような、良質な日本の美を展開できればと考える。
報告者:永吉秀司

「学びや」対話型鑑賞ワークショップ
児童を対象とした綴り作品「松林図」対話型鑑賞

参加者: 36名(児童27名 引率8名)
場所:  清徳寺庫裡大広間(38.5帖)

  • 児童を対象とした綴り作品「松林図」対話型鑑賞
  • 児童を対象とした綴り作品「松林図」対話型鑑賞
「学びや」と呼ばれる新潟大学教育学部の学習社会ネットワークが主催する公民館の学習プログラムである。企画当初このような企画は設置していなかったが、「学びや」の引率指導をしている学生からの要望もあり、大学院生の授業実践の機会として、また綴り作品の教具としての有効性を検証したいと思い、このような企画を会期の途中で導入実践した。
本企画は本学の大学院生が、小学生30名ほどを対象に、対話型鑑賞の手法で、「この絵の中で何が起こっているか?」というキーワードを利用し、主にVTSの手法で、鑑賞を展開した。鑑賞開始当初、VTSの手法は、「松林図」のような表現の絵画にはそぐわない鑑賞方法ではないかと考えられたが、「松の種類が、こちらは赤松で、あちらは黒松」「この松は浜に生えている松だ。」「この絵の中に人がいる」などと、子どもの闊達な発言が飛び交い非常に興味深い鑑賞WSであった。
このように闊達な意見を出せたのは、今回展示した作品のモチーフが「松」という新潟県民にとって一番身近な植物であるというのも理由のひとつであると思われるが、この作品自体が実物の作品と同じ大きさで、同じ解像度であるということが一番の理由であろう。
通常、学校の授業の対話型鑑賞は、モニターに映し出した図像で判断する場合や、教本の中の作品で鑑賞する場合が多い。しかしその方法では、印刷の整合性、スクリーンの塵などにより図像を見誤る場合がある。その点、綴り作品においては、30センチ近づいても真贋が判断しにくい解像度のため、児童の図像解釈は本物を見た場合の鑑賞と差はないであろう。特に、「松林図屏風」のような国宝作品では、実物に30センチ近づいて鑑賞することはできない。従って、文化財、特に国宝級の作品の鑑賞教育を実践する場合、これほど有効な教材はないであろう。
今後の展開として、このような綴り作品と連携して展示企画を実践する場合、事前に各学校所属の地域コーディネーターと連携し、授業実践の中に取り入れていただけるよう働きかけて行きたい。  
報告者:永吉秀司
○展示場所
清徳寺
住所:新潟市西区内野町590  
℡025‐262‐2266 (住職:大原充)
・内野地区で一番大規模な寺院。 
・現代の名工の技が光る、現代木造和風建築。
・借景など、本来の屏風絵の鑑賞の仕方が、再現可能。
・お茶会の設備も充足している。
・床の間を活用した展示演出。

○使用場所
・庫裡大広間 24帖と38.5帖(次の間)
・玄関正面の部屋2間計25帖
・境内横御簾の間(2間計16帖)
・回廊ニッチ部分
・奥の間(2間続き計約22帖)

○使用期間
9月26日(土)~10月11日(日)
※搬入:9月25日(金) 搬出10月12日(月)・13日(火)
○期間中の作品の保守管理
・新潟大学学生の学芸員資格予定者の実習の一環として会期中保守管理を行う。
・本学の学芸員資格取得職員により、管理・運営にあたる。